さんてんびこりんの日記

グリーフケアを広めたいと思いブログを始めました。良かったら覗いてみてください。

天ちゃんが胃捻転に…

我が家の長男の天ちゃんが胃捻転になりました。

その体験を振り返ってみようと思います。

死別ではないので、阿部美奈子先生の医療グリーフケアの視点で考えてみようかと思います。

阿部先生はグリーフは直訳すると悲嘆・嘆きと訳されます。グリーフケアでは「自分の大切な対象をなくしたり、なくすかもしれないと想像したときにおこる心情」ととらえます。

また、ペットにとっての安心や安全を脅かされることでペットもグリーフを抱えるといわれています。

【グリーフの心理プロセス】*阿部先生は下記のように紹介されていました。

・衝撃期:ショック、無感覚、思考困難、否認

・悲痛期:悲しみ、後悔、自責、怒り、罪悪感、孤独感、見捨てられ感、期待

・回復期:現実受容、断念、肯定的思想、立ち直り、

・再生期:再出発、希望、自立、新たな出会い

 

さて、天ちゃんです。14歳のミニチュアダックスのおじいちゃん。

動物保護団体から10歳の時に我が家へやってきました。

*経過*

天ちゃんが夜に急に嘔気をもようし、胴体が異常に膨れ上がりました。急いでかかりつけ医に受診しましたが、天ちゃんはどんどん生気を失っていってました。胃捻転の可能性が高いというこで、相談の結果、膨満した胃を穿刺してガスを抜く処置をして救急病院を受診することにしました。穿刺後は天ちゃんの呼吸が安定し少し生気が戻ってきました。

救急病院に到着するとかかりつけ医からすでに天ちゃんの状態報告がされており、すぐに診療、検査が始まりました。胃捻転の診断をうけ手術が決まりました。発症後、6時間以内に手術すると予後がよいと説明をうけたのですが、手術開始予定は6時間ぎりぎりでした。わがままを承知で、医師に「なるべく早く手術をお願いします」といったところ、医師に「外来患者もいるので現状をご了承ください。」と言われました。

帰宅し、手術が終了し臓器の血流も比較的よく、予後は良さそうだと報告を受けたときは安心して号泣でした。

翌日、かかりつけ医から電話があり、無事に手術が終わったこと、手術をすぐにしてもらえなくて不安だったことをお伝えしました。すると、「手術の前に点滴をしたりして循環を安定させたりする必要もあるから、開始時間が遅くなったのかもしれないですね」「気になっていたので無事に手術が終わって安心しました。油断せずに経過を見ていきましょう。」「自分で手術はしてあげられなく申し訳なかったが、生きて紹介した病院から帰ってきてほしいから、少しでも治療がスムーズにできるように自分ができることをしただけです。」と言われました。

 

*私の心情*

私の心情を振りかえってみようと思います。

私は天ちゃんの生気がすごい速さで失われていくことで、「このままじゃ天ちゃんが死んじゃう!」と死を意識して不安が大きくなりました。不安と同時に焦りもあり落ち着かず、冷静ではいられませんでした。処置の結果、天ちゃんの生気が戻ってきたことで時間の猶予ができたと、天ちゃんの救命の希望が少し見えました。

救急病院では、私は胃捻転が時間との勝負である病気だと知っていたので、すぐ診察を受けられたことで、「すぐ手術してもらえば、天ちゃんが助かる!」とまた希望がもてました。しかし、手術時間が期待と違い遅く、「え、それじゃ胃の血流が悪くなっちゃうじゃん。少しでも早く手術してよ!」と不安とともに怒りの感情が生まれました。

さらに、「他の受診がなければ早く手術してもらえるのに」と怒りは医師にだけではなく、救急外来に受診するほかのペットたちにも生まれました。

そして、先生の「現状を了承してください」という言葉にも理不尽さ、怒りを感じました。多分、顔はムッとしていたのではないかと思います。

手術が終わるのを待つ間は、夫も私も無言で空気が張り詰めていました。医師への怒りやどうにもならない現状に対する理不尽さが反芻されるようでした。

手術終了の電話を受けたときは、医師の説明は適格で丁寧でした。患犬の困った家族であった私にも普通に接してくれたこと、無事に手術をしてくれたことに感謝のきもちがありました。そして、緊張感が緩み涙がこぼれました。



*考察*

かかりつけ医は一人でやっている病院でした。マンパワーの関係などで救急疾患に対する対応ではあまり期待できない状況でしたが、今回の対応は不安な中で希望や安心を生み大きなサポートとなりました。特に、手術について、ショック状態だった天ちゃんの循環を安定させてから手術することは重要と思えたので、手術までの待ち時間が私にとって不毛の時間だったものが意味ある時間に変わりました。かかりつけ医の対応が悲痛期における孤独感や見捨てられ感などに対するグリーフケアだったのだと思います。

また、「ここで手術してもらえない」現状には不安は少しあるものの怒りは生まれませんでした。24時間対応してくれる病院をかかりつけにしたいと思うこともありますが、今回のことで「この先生でよかった」と思えました。これは、かかりつけ医のグリーフケアがあったからこそだと思います。

救急病院は、救命が優先されますし、スタッフともなじみがありません。対応は丁寧だし現状でできる最善のことは実践してくれていると感じ、安心感を与えるグリーフケアだったと思います。それでも、おおきな不安の中ではちょっとした言葉尻に不安を感じ怒りが生まれました。その大きな不安は同じように愛するペットを守るために受診している他者にも怒りを生み、さらにその怒りを持った自分にも自責の念もおこり、怒りが怒りを呼ぶという連鎖がありました。最終的に手術が無事に成功したことでほとんどの怒りはなくなりました。阿部先生は「怒りは極限の哀しみの表現」言っていますが、私はまさにそのような状況だったのだと思います。

小さい期待や見捨てられ感などの悲痛期での心情がケアされず、大きな怒りとなったと考えます。しかし、救急病院では救命が優先される特徴もあり対応困難なことが多いでしょう。自分が陥る心理過程を知っていれば少し冷静になれるのではないでしょうか。セルフケアで自分の気持ちを整理し、落ち着くことは我が子の治療をすすめるチームの一員として、私のできるのことなのかなと思いました。

 

*終わりに*

長くなりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。

レポートには書きませんでしたが、かかりつけ医受診時に実は衝撃期の思考困難がありました。そこは夫がフォローしてくれました(^_-)-☆

今回、天ちゃんの胃捻転に関わったすべての医療従事者、夫、張り詰めた空気の中で静かに寄り添ってくれたうちの犬たちに感謝です。

次は、天ちゃんのグリーフに着目してみようかな。

 

*今回参考にした資料*

PEPPY Web ライブセミナー 第6期動物医療ケア 資料

阿部美奈子著:犬と私の交換日記 獣医師が考えた愛犬とあなたのきずなを深める50の  

       質問、二見書房、2022.